私は30代半ばの男性であり、勤めていた小売店が事業整理によって縮小したことから、その会社の将来性に疑問を感じて、より良い人生を送るために転職をしました。小売店では正社員の立場ではあったものの、特にスキルが身につく業務内容ではなく、日々のタスクをこなしていくだけでした。職場の人間関係はそれほど悪くはなかったのですが、その時点でちょうど30歳に近づいていたこともあって、将来に対する危機感を持っていたのです。
転職先は、自動車関係の製造業の現場でした。所謂下請けの企業であって、現場で物の移動や加工を行う仕事と理解した上で、求人に応募しました。待遇は同じく正社員でしたが、入社してから半年は試用期間としてアルバイト扱いになりました。私が求人に応募した時期は、ちょうど人手不足だったようで、面接では現在の仕事について質問をされた後に、数日後にあっさりと内定をもらえたことを今でも覚えています。初めての転職とあって、とりあえず日本では製造業が安定しているから、その業界で働いてみようと考えたのです。
自動車の製造業では、業界として一番上にいる会社の方が良かったのですが、そちらでは期間工と呼ばれている短期間の募集が大部分で、正社員になれなかったので断念しました。自分でも採用される可能性が高い会社を選べたという意味では、私の見立ては正しかったと言えます。しかし、安定した経営があることだけ考えていたので、その認識の甘さによって少しずつ追い詰められていきました。その主な理由は、製造業の現場は常に動いていて、昼勤と夜勤を交代で行っていた点です。それまで夜には眠る生活だったのに、1週間ぐらいの間隔で勤務時間が入れ替わるという不規則な生活に変わってしまいました。
転職した会社は大企業の傘下で、仕事のマニュアルが完備されていました。作業者としては新人である私でも、段階的に仕事を覚えられたことには、さすが世界に誇る製造業と感心しました。とはいえ、夜勤による負担は想像していた以上に大きく、その日の製造ノルマを達成することにピリピリしていたのも相まって、この転職は失敗だったという思いが強まっていったのです。転職してから数年間が経った30歳前後の年齢で、私は前職よりも増えた収入が記載された給与明細を見ながら、製造業に特有の連休中に、これからどうするべきかを真剣に考えました。そして、熟考の末に、この転職は失敗であったと結論を出しました。
失敗した原因は明確で、自分の適性と業務内容のマッチングを全く考えていなかったからです。いくら経営が安定していても、自分の心身がおかしくなっては元も子もありません。ただし、これは私の事情であって、もっと体力があって、体を動かすのが似合っている方にとってはまた別の話になります。考えてみれば当たり前の話ですが、私があっさり正社員として採用されたのも、それだけ仕事がきつくて、長続きしない人間の方が多かったからだと、今ならすぐに説明できます。慢性的な人手不足になっている会社には、やはり相応の理由があるのだと、実体験によって深く理解できました。
自分の人生をかけて決断した転職が、実は失敗であったと認めるのは、とても辛かったです。けれども、会社の様子と業務の流れを一通り覚えた時に、このまま続けていったら完全に自分を壊すと見切りをつけたおかげで、残りの人生を棒に振らずに済みました。人間関係が多少悪いぐらいなら、我慢して勤務したかもしれませんが、体力が衰えてくる中年に差し掛かった年齢でのハードな肉体労働となると、さすがにそのまま流されていくのが怖かったのです。
改めて転職をすると決めてからは、1回目の失敗を繰り返さないために、転職支援のサイトで情報収集をする、転職に詳しいエージェントに相談する等の対策をしました。日本では転職の回数が多くなるほど不利になりやすく、私についても給料は下がるだろうと転職のプロから言われました。結局、自分の立場を安定させるために、手に職をつけられるWEB関係の求人を選び、30代半ばの現在に至っています。収入としてはかなり下がりましたが、けっこう楽しく仕事ができているので、それなりに満足です。
